土壌汚染の歴史①~土壌汚染黎明期~

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2022年

土壌汚染の歴史①~土壌汚染黎明期~


今日、日本では土壌汚染について土壌汚染対策法が定められており、全26項目の物質が特定有害物質に指定されています。この土壌汚染対策法は2003年に定められています。ではそれよりも以前はどうだったのでしょうか。
土壌汚染の歴史、第1回目となる今回は日本と世界で起きた土壌汚染に関する問題について、まずはその歴史を振り返ってみましょう。

記録に残る日本で最初に起きた土壌汚染問題は「鉱害」です。今からおよそ120年前、1900年代初頭、日本では鉱業が主産業として栄えていました。その中で起きた代表的な事件が、足尾銅山鉱毒事件などの4大鉱毒事件です。鉱山から排出された鉱毒ガスや鉱毒水によって周辺地域の河川や土壌が汚染され、大規模な被害をもたらしました。

鉱毒による汚染被害に対して、田中正造をはじめとした活動家が声をあげてはいましたが、鉱毒事件において、政府から鉱毒を排出した当事者への責任追及は一切行われず、根本的な対策も実施されることはなく、戦後まで見過ごされてきました。

日本で土壌汚染問題が再燃したのは、4大鉱毒事件発生から70年以上経った1968年。富山県の神通川流域で発生したイタイイタイ病でした。神尾鉱山から排出されたカドミウムを含む排水が神通川を汚染し、その汚染された河川水を稲作の灌漑に利用した結果、水田が汚染されカドミウムが米に蓄積され、その米を食べて起きた公害病です。

イタイイタイ病の発生を受けて、1970年に国は「農用地の土壌の汚染防止等に関する法律」を制定しました。(この法律についてはコチラもご参照ください。)ただしこの法律では米に含まれるカドミウムと、田んぼの土壌に含まれるヒ素を規制するもので、農用地に限定された法律でもありました。日本が土壌汚染問題に対する法的規制について取り組み始めるのは、ここからさらに20年以上後のことになります。

土壌汚染問題に対する法的規制を初めて制定したのはアメリカでした。ことの発端は1979年にニューヨーク州ナイアガラ・フォールズ市で起きたラブ・キャナル事件。この事件は1890年代に運河として計画・開発が行われていた場所を、後に国がゴミの投機場に設定したことに始まります。のちに化学品メーカーがこの場所を購入すると、1940年~50年代にかけて様々な有害物質を2万トン以上投機したといいます。その後この廃棄物で埋め立てられた運河の跡地を同市が買い取り、住宅や小学校を建設しました。

しかし運河跡地周辺では、雨が降るたびに汚水の流出や異臭が起こるようになり、流産死産したり、白血病で亡くなったりする人が続出しました。これを受けて土壌を分析したところ、なんと80以上の有害物質(大半が揮発性有機化合物=VOC)が検出されたのでした

1980年に当時のカーター大統領から非常事態宣言が発令され、運河跡地周辺に住む住民は移転されられ、浄化対策工事が行われることになりました。ラブ・キャナル事件で投機された物質は、当時の法的には問題のないものばかりでしたが、ほかの地域でも過去の投機・廃棄物による土壌汚染・地下水汚染が相次いで発覚してきたため、アメリカはそれらを機に、過去の汚染についても企業に対して浄化責任を問えるスーパーファンド法」を制定しました。

このスーパーファンド法では、特定の有害物質を取り扱う企業から徴収した税金を基金として、汚染土壌の浄化費用に充てたり、企業による土地の形質・利用法変更時の土壌汚染調査を義務化したり、土壌汚染原因者が特定できない場合も浄化対策工事とその費用を国が一時的に負担したりするなど、当時ではかなり画期的な法律でした。
(余談ですが、ラブ・キャナル事件以降、アメリカでは環境汚染に敏感になりすぎて、河川にアイスクリームを落としただけで汚染だと問題になったこともあるとか。)

いかがでしたでしょうか。今回は土壌汚染の黎明期についてお話させていただきました。今でこそ環境問題に敏感な日本ですが、ほんの数十年前までは見過ごされてきた問題だったことが分かりますね。
次回は、その後の世界の土壌汚染への対策や、日本での取り組みなどをご紹介していければと思います。

酒井

関連ページ:
土壌汚染対策法における特定有害物質一覧
事例紹介
【参考】
環境省:農用地の土壌の汚染防止等に関する法律
EICネット:ラブ・キャナル事件


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